以前、ある男性が、NHKを相手に慰謝料を求める裁判を起こしました。この男性は、番組内で外国語が乱用されたため、精神的苦痛を受けたとしてNHKに対し141万円の慰謝料を求めました。NHKは公共放送なので、誰に対してもわかりやすく伝えなければいけない、NHKはその義務を怠っているということです。
訴状では、
- 「リスク」や「ケア」など、外国語を使わなくても表現できる言葉を多用している
- 番組名にも「BSコンシェルジュ」「ほっとイブニング」など外国語を乱用している
とあったようです。
たしかに、カタカナ語がたくさん並んでいると読みづらいですし、ストレスを感じますね。日本語でも表現できることを、理解しづらい外国語で伝えられたらイライラするでしょう。しかし、にもかかわらず、外国語(カタカナ語)が、世の中にあふれています。
なぜ日本で表現できる内容をわざわざわかりづらいカタカナ語で表現するのでしょうか? それによってストレスを抱える人が少なからずいるのに、なぜカタカナ語はこんなにも乱用されるのでしょうか?
この「カタカナ語問題」、みなさんはどう考えますか?
暮らしの中に外国語があふれている
これに関連して、日経新聞が調査を発表しています。
暮らしのなかに外国語があふれている。「テーマ」「スピード」といった耳になじんだ言葉だけではない。最近は「サステイナビリティー(持続可能性)」「ダイバーシティー(多様性)」などという、まだちょっとこなれない新語も増えた。 そうした傾向が気になるという声をよく聞く。(中略) 5年前に比べ、日常生活で外国語を耳にする機会は増えたかどうか。調査結果をみると「増えた」「どちらかといえば増えた」が計76%。使われ方についてどう感じるかを聞いたところ「使われすぎている」「どちらかといえば使われすぎている」が52%と、半数を超えた。やはり違和感は小さくないようだ。(2013年7月22日 日本経済新聞 サーベイ 外国語「使われすぎ」52% 巧みな言い換え難しく)
多くの方が、「暮らしの中に「外国語」が増えている」と感じているようです。カタカナ語を聞くと、なんとなくわかったつもりになりますが、本当のところ意味を理解できていない場合が多いものです。そもそも、カタカナ語は日本語にできないからカタカナ語なのです。その時点で、日本人には理解しづらいような意味をもつ言葉なんです。
ところが、カタカナ語を使って話すと、なんとなく「すごいことを言っている」ように聞えるためか、それを頻発するビジネスマンがいます。自分では「カッコイイ」と思っているかもしれません。もしくは、カタカナを日本語に変換するのが面倒なのかもしれませんね。日本語にするためには、自分の頭でしっかりとカタカナ語の意味を理解しなければなりません。しかも、話す内容にあわせて適切な日本語を見つけてこなければなりません。それが面倒だから、ついついカタカナ語を使ってしまうのかもしれません。
でも周囲から見ると、タレントのルー大柴さんみたいで、なんだか滑稽です(ルー大柴さんは、そういう芸風なので何も問題ありません)。第一、内容がわかりづらいです。
たとえば、社長がこんな経営方針を発表したら、どう思いますか?
「わが社の経営方針を伝える。わが社はこれから、ダイバーシティを重視した経営を行なう。社員一人ひとりの適性に応じたワークシェアリングを徹底するとともに、一人ひとりのモチべーション管理にもコミットしていく。一方で、マーケットの動きに素早く対応できるよう、それぞれのディヴィジョンのモニタリングを強化していく」
何が何だかわかりませんね。できるだけ、カタカナ語は日本語に置き換えてから伝えるように努めなければなりません。では、この例文をもとに、実際にカタカナ語を日本語に変換していきましょう。それぞれ、日本語ではこのように表現します。
「ダイバーシティ」=多様性・相違点
「ワークシェアリング」=業務分担・勤労者同士で雇用を分け合うこと
「モチベーション」=やる気
「コミット」=目標に対して責任をもつ
「マーケット」=市場
「ディヴィジョン」=部署
「モニタリング」=点検・管理
キーワードを置き換えて先ほどの文章を作り直すとこうなります。
「わが社の経営方針を伝える。わが社はこれから、社員が一人ひとり違った個性をもつことを重視した経営を行なう。社員一人ひとりの適性に応じて業務を振り分けることを徹底するとともに、一人ひとりの社員がやる気をもってもらえるような仕組みづくりを責任をもって行なう。一方で、市場の動きに素早く対応できるよう、それぞれの部署が行っていることを経営陣がしっかりと管理していく」
いかがでしょうか?
カタカナを日本語に置き換えただけで、かなりわかりやすくなったのではないでしょうか? このように、「カタカナ語」はできるだけ「日本語」に置き換えて伝えるようにしてください。もちろん、「ラジオ」や「パソコン」などのように、すでに日本語として定着しているものまで無理に変換する必要はありません。小学生に通じないカタカナ語は、日本語に置き換えると考えていただければ大丈夫です。
日本語にする時の注意点
先ほどの日経の記事には、続けて以下のような指摘がありました。
もっとも、巧みな言い換えはとても難しい。国立国語研究所は「インフォームドコンセント」を「納得診療」、「ノーマライゼーション」を「等生化」などとする案をまとめたが定着していない。言い換えると、逆に意味不明になることもある。(引用元:同上)
当たり前です。カタカナ語はわかりづらいです。しかしもうひとつ、「熟語」もわかりづらい表現の代表格なのです。だから、「カタカナ語」を「熟語」に変換しても何の意味もないのです。わかりづらい言葉を、別のわかりづらい言葉に置き換えているだけですからね。
「インフォームドコンセント」→「納得診療」は、まぁまぁ理解できなくもないですが
「ノーマライゼーション」→「等生化」は余計わかりにくくなっています。
ではどうすればいいか? 一番の解決策は「文章にする」です。どういうことか、解説しましょう。
たとえば、「黒字化」「確実視」「購買」という熟語があります。ひとつひとつの意味はわかるでしょう。ですが、熟語を多用するとわかりづらくなります。漢字が多い文章は難しく感じますね。わかりやすくするためには、熟語をできるだけ使わないように、意識しなければいけません。とは言っても、「黒字化」という内容を伝えたいのに、「黒字化」という言葉を使ってはいけないのでは、内容を伝えられません。どうすればいいでしょうか?
そういう時は、まず「漢字+ひらがな」に変換して表現するのです。多くの熟語は「漢字+ひらがな」に置き換えて表現することができます。たとえば「黒字化」という熟語は、「黒字になる」と言い換えることができます(ほかにも「○○化」という言葉はたくさんありますが、すべて「○○になる」という動詞に変換することができます)。
「確実視」という熟語は「確実だと見る(思う)」と言い換えることができます。たとえば「今年度のわが社の業績は黒字化が確実視される」という文章は、「今年度のわが社の業績は黒字になることが確実だと思われる」と言いかえることができるわけです。より多くの人に理解しやすい表現ではないでしょうか?
その他にも次のように言い換えができます。
- 「増減」:「毎月の売上増減に、注意しなければならない」
→「毎月の売上が増えたか減ったかに、注意しなければならない」 - 「動機」:「A社が事業を拡大した動機を知りたい」
→「なぜ、A社が事業を拡大したのかを知りたい」 - 「購買」「意欲」「低下」:「消費者の商品購買意欲が低下している」
→「消費者が商品を買おうとする気が小さくなっている」
なんとなくコツがつかめたでしょうか? 要領さえわかれば、熟語を「漢字+ひらがな」に置き換えるのは難しいことではありません。ぜひ、皆さんもこの技術を身につけていただきたいと思います。
では、さきほどの「インフォームドコンセント」は、どう表現するべきでしょうか?
- 「インフォームドコンセント」
→「納得診療」
→「(患者が処置や治療方法を)納得(してから)診療(すること)」
です。
熟語がわかりづらいのは、漢字が並んでいるからという点もあります。しかし、より重要なのは、「主語と述語が不明確だから」という点です。主語と述語を明確にすれば、わかりやすくなります。
このように「文章」にすると、「稚拙に見える!」「表現が長くなる!」という批判が起こります。ご指摘はごもっともです。でも、あなたの目的はなんでしょうか? 「稚拙に見せないこと」「短くまとめること」が目的で、それができれば、わかりづらくなってもいい、ということでしょうか?
本来は違うはずです。「伝わること」「わかりやすいこと」が第一目的のはずです。テレビや新聞に限らず、私たち自身も、「伝わること」「相手にとって、わかりやすく表現すること」を第一の目的に考えるべきです。そして、相手に伝わらないカタカナ語はやめるべきです。(「テレビ」や「ラジオ」など、既に日本語として定着し、小学生でも理解できるカタカナ語は、そのまま使用して構いません。無理に日本語に言い換えると、意味不明になります)
そして、国立国語研究所のみなさんには、改めて目的を定義した上で、「わかりやすい!」を広めてもらえるよう期待したいです。
【今回のまとめ】
カタカナ語は日本語に。日本語の熟語は文章にすると、よりわかりやすくなる。
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