この記事で、「そもそも“わかる”とは、どういうことなのか?」、また「“わかる”の3段階とは何か?」などをお伝えしました。改めて説明すると、「わかる」には3つの種類があります。それは
- ①話の内容を把握する
- ②話の内容を納得する
- ③話の内容を再現する
でした。まず、相手が言っている内容を把握しなければ、「わかった」となりません。次に、相手の話を納得しなければ「わかった」となりません。言っていることは理解できても、納得できなければ「なるほど、そうだね」とはなりません。そして最後に、せっかく話を聞いても、次の日に忘れてしまったら「わかった」とはなりません。つまり話を自分一人で再現できなければ「わかった」とならないのです。
これが“わかる”の3段階です。
また、こちらの記事では、話をわかりやすく伝える絶対ルール“テンプレップの法則”をお伝えしましましたね。どんな話でも、テンプレップの法則に従えば、わかりやすくなってしまう、という魔法のような法則です。
- .これから伝える内容のテーマ(Thema)
- 伝えたいことの数(Number)
- 伝えたい内容のポイント/結論(Point)
- どうしてそう言えるかという理由(Reason)
- 実際にどういうことがあるのかという具体例(Example)
- 最後に結論を念押し(Point)
テンプレップは、この要素の頭文字をとって、順番に並べたものです。この順番で伝えると、どんな内容でもわかりやすくなってしまうのです。
この「わかるの三段階」を頭で理解し、とテンプレップの法則を活用すれば、ほとんどのテーマは相手にわかりやすく伝えられます。これが「正しい方向性」といってもいいでしょう。ただ同時に、「間違った方向性」も知っておかなければいけません。もし「あ、ワタシ・オレ、やっちゃってるかも……!」と思ったら、軌道修正しましょう^^
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■伝え手の大きな勘違い
説明する側の「大きな勘違い」についてお話ししておこうと思います。この「勘違い」のせいで、説明が分かりづらくなっているケースが多くあります。非常にもったいない話です。でも、その勘違いがなくなれば、すぐに状況は改善されます。 ここで、多くの方が勘違いしているポイントを紹介していきます。
1.一度言えばわかる
「説明は一度だけすればいい」「一度『聞き手』が納得したら、もうその説明は不要」そう考えている人もいます。「同じ事を2度言わせるな」というセリフを聞いたことがある方も多いでしょう。たしかに、何度も同じ事を伝えたくないと思うかもしれませんね。しかし、「一度言えばわかる」というわけではないんです。
人間は忘れる動物です。ドイツの心理学者エビングハウスによると、新しく覚えたことでも20分後に42%、1時間後に56%、1日後には74%忘れてしまうといいます。つまり、一度納得しても、「あれ、それって何だっけ? どういうことだっけ?」となることが往々にしてあるわけです。そのため、時間が空いたり、いったん別の話題に進んだ時は、再び前に戻って確認する必要があります。その時理解できたからと言って、その知識が100%定着して、その後も記憶に残り続けていると考えてはいけません。
“わかる”ためには、「再現」できることが不可欠です。一旦話を聞いて理解し、納得しても、それを覚えていられなければ、相手は“わかった”となりません。
ですから伝え手は、相手が「再現」できるように、工夫しなければいけないのです。忘れやすいポイントを繰り返して何度も念押ししたり、語呂合わせで覚えやすくしたり、ポイントをまとめて整理したり。それを怠ると、相手は忘れてしまいます。そして忘れてしまうということは、その人たちにとっては、「最初から聞いていない」のと同じなわけです。
そんな時に「一度伝えたのだから、聞き手は100%理解している」という前提で話を進めると、聞き手にとってはちんぷんかんぷんになってしまうのです。
「再現」が必要なのは、知識だけではありません。「理屈」や「ロジック」についても、相手が自分一人で「こういう理屈で、こうなるんだったな」と再現できなければいけません。説明を聞いた時には、なんとなくわかったような気になりますが、少し時間がたつと「やっぱり分からない」ということがよくあるからです。学校時代、数学が苦手だった方は心当たりがあるのではないでしょうか? よく間違えるポイント、忘れてしまいがちな項目については、繰り返し再確認をするべきです。つまり、伝え手は、相手が「再現」できるように工夫しなければいけないのです。
もちろん、同じ内容ばかり繰り返し説明していたら、いつになっても先に進めませんし、一度話せば確実に理解できるような内容まで「再確認」する必要はありません。でも、物事を理解する上で必要な知識や理屈の場合は、何度も何度も繰り返して説明・確認すべきです。そうすることで、相手は自分一人で再現できるようになるのです。
2.正確に表現しなければいけない
「人に何かを伝える時には100%正確に伝えなければならない」――これも非常に有害な「勘違い」です。なぜかというと、100%正確に伝えようとすると、話が複雑になり、かえってわかりづらくなることが多いからです。わかりづらくなれば、「話を把握する」ことも「話を再現」することもしづらくなります。
もちろん、話が複雑になったとしても、正確に伝えなればいけないことはあると思います。しかし、ほとんどのケースでは「100%の正確さ」は不要です。むしろ、とりあえずざっくり分かることの方が大事だったりします。それに、詳細に説明しなければいけないことでも、最初にざっくり説明しておいて、細かいところは後から補足していく方が、理解してもらううえでは効率的です。
たとえば、「Emailのアカウントとは何か」ということ をコンピュータにくわしくない人に説明するとします。この時、正確に伝えようとしたら、こうなります。
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「メールサーバにアクセスするための使用権のこと。そのメールサーバ上でメールアドレスを取得したユーザに与えられる権限であるので、通常はメールアドレスと一対一に対応する。メールアカウントを与えたユーザに対しては、一対のユーザIDとパスワードを割り当て、メールサーバ上に受信メールを保存するためのメールボックスを用意する。これにより、そのサーバ上でメールの送受信ができるようになる。また、メールサーバを利用する時のIDをメールアカウントということもあり、大抵はメールアドレスの「@」より前の部分がIDとなっている。(IT用語辞典より http://e-words.jp/)」
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これが「正確な説明」です。でも、これで、コンピュータに詳しくない人にも理解してもらえるでしょうか? かなり難しいと思います。なぜかというと、正確に伝えようとするあまり、話が複雑になりすぎているからです。
では、どうすればいいのか? たとえば、次のように説明します。
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「メールアカウントとは、Emailを受け取るため住所みたいなものです。はがきと一緒で、書いてある『住所』にメールが送られてきます。また自分がメールを送る時には、差出人として相手に伝わります。この『メールアカウント』が違うと、『別の人からのメール』と認識されます」
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この説明は、正確ではありません。ですから、真実の10%も伝えられないかもしれません。でも、少なくとも、「Emailアカウントとは何か」ということは理解できるはずです。こっちの方が分かりやすからです。
正確さと分かりやすさは、多くの場合、相反します。正確に伝えようとすると、どんどん複雑になり、分かりづらくなるんです。そのため、「分かりやすく説明すること」が第一の目的の時は、多少大雑把でも、聞き手が理解しやすい言葉で表現することが大事です。また、正確に表現すると、単純な話でも伝わりづらくなることがあります。
たとえば、こういうことです。
私たちはふだん、テレビや新聞、雑誌のことを「マスコミ」と言いますね。これは「マス・コミュニケーション」の略ですが、これはテレビ・新聞・雑誌などを指す言葉として間違っています。正しくは「マスメディア」です。(「マスコミ」とは、「マスメディア」による大衆への情報伝達のことを言います。)しかし、一般的に「マスコミ」という言葉で理解されているため、「マスメディア」ではなく「マスコミ」と使った方が伝わりやすいのです。
このように、馴染みがあって、理解されやすいという視点で考えると、「マスコミ」と表現すべきなんです。
またこういう例もあります。1年が365日ということは、みなさんご存知の「事実」です。しかし実際には、地球が太陽の回りを一周(公転)するのに365日と約6時間かかります。だから、1年=365日として計算すると、何百年後には、夏と冬が逆転してしまいます。そのため、4年に1度「うるう年」を設けて調整します。ここまでは、多くの方が知っている、いわば「基本情報」です。
しかし、じつはもっと細かい定義があります。4年に1度のうるう年ですが、さらに、
- ただし、西暦年が100で割り切れる年は平年
- でも、西暦年が400で割り切れる年は閏年
なのです。つまり400年に3回は「うるう年を止める年」があります。さらに言うと、その「うるう年を止める年」も4回に1回は「なし」になります。このように、割と複雑なルールがあるんですね。
では、「うるう年」について、小学校1年生の子供に説明するとします。もし「100%正確な情報」を伝えなければいけないとしたら、「あのね、1年は365日でしょう? でも4年に1回は1日増えて366日になるんだよ。それを『うるう年』って言うんだ。でも100年に1回は『うるう年』をなくす年があって……」 と説明しなければいけなせん。
でも、「うるう年」が何回かに1回はなくなる、そしてその「なくなる回」も、「なし」になることがある、というような細かい情報は、正直いって最初は「知らなくていい情報」です。それよりも、「4年に1回は1日増える」ということをしっかり覚えてもらうことが大事です(現に、大人でも正確なルールを知っている人は全体の1%もいないでしょう)。
もちろん、興味がある人には伝えても問題ありません。しかし、何でもかんでも相手に伝えようとすると、結局何も理解してもらえなくなります。実際、多くの専門家や大学教授の話が「わかりづらい!」のは、正確さにこだわって話が細かすぎるから、という点が大きいのではないでしょうか?
だとしたら、「100%正確な情報」ではなく、ざっくりとした情報を伝えて、まずはそれをしっかり把握してもらうのが「正しい伝え方」です。
【ポイント】正確さにはこだわらない
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